2006年11月05日

精進ラーメン その2

さて前回に引き続いて精進ラーメンを作って参りますよー.

湯葉の叉焼もどきラーメンと云えば何を措いてもチャーシュー.他の具はともかく叉焼ヌキのラーメンというのは存在の根幹に関わりますれば,最優先で模作せねばなりませぬ.して叉焼の味の中核というのは,あれは実は肉の味ではなく脂の味でございます.ところが脂と申せばラードにせよ背脂にせよ鶏油にせよ,動物系脂肪,すなわち飽和脂肪酸の類でして,これが叉焼だけでなくスープのコクを出す事に大きく寄与するわけですが,それをば全く物性の違う植物油で代替する必要があるわけです.

そこで植物油で飽和脂肪酸の多いものをリストから捜せば筆頭はヤシ油,なのですがこれは確かに中世にも存在したような気は致しますが,南アジア特産ですのであまり使いたくありませぬし,何より香りが異質である.いずれにせよ中世東アジアに存在した油と言うとあまり選択肢は無いようで,さしあたりそのへんにあった白絞油や胡麻油を冷やしておいて固まった部分,つまり融点の高い固形植物脂を掬い取って使う事に致します.これならまぁ中世でも油を保存している過程で容易に得られた筈でございますね.

昭和 白絞油(特用) 16.5kg余談ですがこの「白絞油(しらしめゆ)」ってのもなかなか小売りしておらぬようになりました.白絞油の大方は大豆油が主成分で,リンク先をご覧じて頂けば瞭然ながら極めて安いものなのですが,冷えると固まりが出て舌触りを損なう性質があるせいか,今は小売用の油はすっかり上級シフトしてサラダ油に取って代わり,スーパーの店先には見なくなってございます.もちろん業務用の揚げ油としてはバリバリ現役で,最近も「ケンタッキー・フライド・チキンが揚げ油を大豆油に切替」なんてニュースがございました.要するに味もいいし身体に悪いものでもないがサラダドレッシングのような低温で使われる用途に向かないのですな.

では差し当り諸問題に大凡の見通しがついたところでニセ叉焼とスープ作りに掛りますぞ.


チャーシューもどきまずニセ叉焼.これは生湯葉を油揚と一緒に巻き,テキトーにタコ糸を掛け,海苔のダシ+コンブダシ+醤油+酒+山椒+生姜+黒砂糖+固形植物脂で煮含めます.
煮上がったら取り出し,醤油を塗ってフライパンで表面を焼けば出来上がり.

精進ラーメンタレその煮汁に再び醤油+干し椎茸を戻し汁ごと追加し,水戻しした大豆,寒天少々なども入れてさらに煮詰めます.干し椎茸や大豆が煮えたなら擂鉢で擂って濃厚に煮詰め,漉した汁.
これがすなわちタレ.

寒天が入っておりますので冷えるとゼリー状になります.香りを嗅ぎますと微かに焦香がしまして口に含むとトロリまったりとしておる.あたかも焦しネギと鶏ガラから取ったタレを思わせますが,焦香は胡麻油,まったり感は大豆油と寒天起源であります.いやはや味覚とは曖昧なものですな.

一方,別の大鍋を用意し,スーパーで「ウサギの餌にするんでコレ下さい」とウソついてタダで貰って来たモロモロの野菜クズを煮込み,いわゆる素湯(すーたん)を作ります.いよいよ「い」も貧するあまり動物の餌を横取りするが如き畜生道まで堕ちぶれて参りました.
何.ウソは不妄語戒に触れると申されるか.いやいや嘘も方便なれば仏陀も許されよう.ともあれ上記のタレとこの素湯を合わせればラーメンスープ完成.

そのスープに茹でた麺をチャッチャッと入れれば精進ラーメンの出来上がり.スープが先,麺が後.これは鉄則でございますね.

精進ラーメン完成図
具は金沢の花麩を素湯で戻してナルトに見立て,茹で菜と支那竹は現代に同じ.板海苔は入れてもいいのですが,板海苔そのものの成立は江戸時代ですから「この黒い紙を食うのかね」と道元禅師を驚かせてもいけませんので四万十川の海苔を乗せました.

なお香辛料は「葷酒山門に入らず」ということからネギやニンニクは植物性なれどナマグサモノの範疇でありますれば使いませぬ.精が付き過ぎる上に匂いが強いからでしょうな.
使うは山椒と擂胡麻,それと家人がミカンを食った後の生ゴミに皮がありましたので洗って干して細かく刻み入れました.いよいよワタシも生ゴミを食うが如き餓鬼道まで堕ちぶれてございます.尤も干したミカンの皮は「陳皮(ちんぴ)」と申しまして,歴とした古来からの漢方薬/香辛料でありますが.

それでは(合掌),いただきます.ずずー.

食いながら物を言うは不行儀ながら妥協点を列挙しますに,
  1. 花麩とナルトは,味はさておき食感が可成り違うので,キリタンポをナルトのように作れば,さらに尤もらしいと思われます.キリタンポの起源自体は近世ですが,あれは基本的には餅(ピン)ですので中世にも存在した食材でございますね.魚抜きの豆腐チクワをナルト状に作ってもいいかも知れぬ.

  2. 麺は安易に普通にスーパーで買って来た定価58円タイムサービス2割引の生麺ですが,これは本格の精進中華麺が当地では入手出来ぬ故でございます.最寄りの中華街は遠い海の彼方に霞む横浜ですのでやむを得ぬ.こちらで入手出来る中華麺は全蛋麺とか蝦子麺とか,精進にはそぐわないものばかりでしてな.決して金をケチったからではありませぬぞ.

  3. 支那竹も中世の支那竹は現在とは違う筈で,筍を生姜と胡麻油で炒めたものがあればより良かろうと存じます.いや実は冷凍したのを持っているのですが,これは唐辛子を使ってしまったので「中世に存在した食材」の縛りに触れるので使えませなんだ.

  4. 海苔は四万十のノリより地元の西伊豆松崎岩科川の川海苔の方が薫り高いかと存じますが,産出量が極小な上に旬を逃がしてしまっていて入手出来ぬのは残念.
してゴタクは措いて味はどうかと申しますと,何の事は無い,極くフツーの醤油ラーメンそのもの.チャーシューと花麩は流石に同じ味はしませんが他は黙って他人に食わせたら精進物とは気付かれますまい.つまりそれは実験が大成功したということに他なりませぬ.
……が,手数を掛けた割にゃぁ結果はフツーの醤油ラーメンってところがアレですな.金は全然掛ってないから良いようなものの.
ちなみに油の質が違う所為か随分と胃には優しいようでございますね.不思議なほどに胃凭れ感がありませぬ.

はて道元禅師,如何でございましょう.これは禅の教えに適うものでしょうか.

お麩と精進で思い出したのですが,お麩を使った精進オニオングラタンスープってのも美味いですよ.そのうちやってみますが,オリジナルレシピより栄養があるのではなかろうか.あとイタリアの卵とじ…ってこれは既に精進ですらありませぬので別の機会に.

【関連エントリ精進ラーメン その1

posted by 「い」 at 16:42 | Comment(0) | TrackBack(0) | 呑み喰い
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