2006年12月30日

コップ

先日,秋岡 芳夫の食器の買い方選び方を話題に登せましたので,ちょっとその繋がりで,久々に食器のデザインレヴューをやってみることに致します.と申しても大した事は無い,なぁに単なるコップでありますよ,デュラレックスのコップ.


【左:ピカルディ 右:プリズム】

Duralexと申しますと,皆様はよくカフェのコップなどに使われておる「ピカルディ」や「プリズム」を連想されるのではないかと存じますが,ワタシが15年来使っておるのは,また別の,Gigogne (ジゴン) という型で,えーと買った時には1コ150円だったかな,とにかく200円もしないのでして,総じて値段の安い Duralex の中でもダントツに安いモデルであります.たぶん現地の仏伊では大衆食堂とか安酒場などで惜し気も無く使われておるのでしょう.しかしこのデザインが侮れぬ.どう侮れぬかと言うと.


デュラレックスのコップ
本当に何気なさ過ぎるデザインでありましょう?ワタシはこれでお茶でもお酒でも焼酎でもワインでも甘酒でもドンドン飲んでしまいます.それどころかソーメンやヒヤムギを食べる時もこれで食べてたりする.これより幾らか高級な食器も一応は持ってはおるのですが,これに勝って「モノを飲む」という日常の行為に快さを与えてくれる道具は稀なのであります..

かと云って特徴らしい処と云えば,上から1/3ぐらいのところと底部に帯状の凹凸があるだけですな.して,この帯の下まで飲物を注ぎますと,ちょうど100mlである.普通に溢れない程度に一杯注ぐと180ml.つまり1合でありますね.

この容量設定だけで,勘のスルドイ方はお気付きになるのではないかと存じますが,以前のエントリ「行軍一刻 水一合」でも触れております通り,1合=180mlというのは平均的な日本人の胃の満腹容量の1/10に相当し,これが水であれば1里=4km=1時間歩くのに必要な水分量に相当し,また酒1合であれば,平均的アルコール耐性のある成人が毎日呑んでも健康を害さない最適値に近い.というヒューマン腹スケールの基準寸法なのですな.昔のガラスの牛乳瓶もこの容量でしたし,レギュラーサイズの缶コーヒーも180mlである.と言えば皆様も「ああ,あのくらいね」と腹で解るのではないでしょうか.

コップ側面まぁそれだけなら普通のコップは大体その位の容量でありますから感心するほどの事は無い.では,再び上の写真を見て頂きましょう.右側の重ね置きしてある方.重ねたカップの口が,丁度上のカップの帯の凹凸部に来ていることに御注目されたい.なぜこうしてあるか.
然様.洗って重ねた時に,お互いが水でくっ付かないように凹凸で空気を逃すと同時に転げぬよう滑り止めを兼ねておるのですな.ミニマルな処理でマキシマムな効果.見事であります.

如何ですか.次第にこいつのデザインの巧みさが見えて来たのではないでしょうか.次に,寸法を検討してみましょう.
まず,最重要箇所として,直接に唇に触れるインターフェイスとしての口径の設定.これは大き過ぎるとお椀みたいになってしまいますし,小さ過ぎると今度は向う縁が鼻にぶつかって飲みにくい.ユニバーサルデザインの教科書なぞを見ますと,まぁ大体は男子ですと口径80mm くらいがヨロシイとなっております.持ち易さの点でも80mmあたりが良いようでして,ワインボトルやビール瓶も近似の口径であります. そこで Gigogne を計ってみますと79mm .殆どドンピシャである.

私事ですがワタシがこれに口を当てますと,計ったようにピタリと鼻柱の低いところに向う縁が来ますな.良い道具に特有のリニア感が横溢しております.ちなみに小顔の御婦人は,一回り小さいモノもございますればそちらをお使いになれば良い.

一方,垂直方向寸法です.これは容量と口径が決まれば自ずと決まって参りますが,Gigogne では適度な二次曲線の裾窄まりで処理しておりますね.これは重要なことでして,この曲線の設定が不適当ですと,ずーと飲んで行った時にコップの傾きが不自然に大きくなりまして芳しくない.煎茶茶碗の腰下の曲線を想起して頂くとお解りになりましょう.

逆に不適当な例はというと,単純な円筒形のマグカップみたいなものを想起して頂くとよろしい.ああいう形状だと,流体の性質上,最後の方は天を仰いでノケゾるようにしないと飲み切れぬものでありまして,ですから例えばそのあたりのオフィスでコーヒーなど飲むのに使われているザッカケなマグカップを覗き込んで回ると,大概は底の方に見苦しく少しだけ飲料が残っておりますな.何故ならそれは最後まで飲み干しにくい形状だからであります.若い人ならそれでも大過ないが,相手が老人や病人ですとノケゾる姿勢が取れなかったり,むせ易くなったりして万人に優しいデザインとは申せませぬ.

視覚的プロポーションはというと,全高と口径がほぼ同じ.ということは視覚的安定度の高い正方形に内接する縦横比を使っておりまして,帯の位置は縁から27mmですので正確な2/3水平分割を使っておることがわかります.どちらもごく古典的,かつ手堅い比例数列でありますね.

とまぁ,ゼロから考えて Gigogne のデザインをやったとすると,名も知れぬこのデザイナーは相当な敏腕ということになりましょうが,さてどうなのか,何となく試行錯誤の結果,このフォルムになっておるような気もしては居るのですが,ワタシもそこまでは解りませぬ.

【関連エントリ】行軍一刻 水一合
posted by 「い」 at 19:06 | Comment(0) | TrackBack(1) | デザイン
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Excerpt: 左がデュラレックス・ピカルディ(ざっくり測って直径75mm,高さ78mm)。右は
Weblog: 1sugi's ToyBox
Tracked: 2008-11-30 17:07
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