2007年01月21日

A Stranger In Paradise

常日頃,ワタシが食い物の話題を持ち出すときは,そのメニューは常に低価格なものと決まっております.言うまでもなくこれはワタシが貧乏だからですが,なにも敢えて貧しい食生活を天下に晒して万人の嘲笑を招くが如き自虐を致すこともあるまい…という声も脳内に聞こえぬではないが現実に貧乏ということはお金がないことであって仕方ない.

然るに今日と云う今日は相当に追い詰められてございます.と申すは本日の我が食品庫は,パスタも干蕎麦も,いやさカップラーメンさえ払底致しましてガチにカラッケツになっており,一方の冷蔵庫には食い残しの塩鮭半分,正月に買ったチーズの欠片,ホウレン草が1本(1束ではない),タマゴ2コ,使い残しのボンゴレソースとミートソース各々1食分に満たずという有様で,炭水化物の影もございませぬ.

してさらに未練がましく食品庫の内奥を探りますと,や,そば粉が出て参りました.実はこの蕎麦粉,年末に何処とも知れぬところから家人が拾ってきたブツでして,何がどう混じり込んでおるやら素性が知れぬ故に危険物視されて誰も手を出さなかったというシロモノですが背に腹は代えられぬ.いやこの際,背はどうでもよろしい,減っておるのは腹でございますれば遂に意を決してこれをば食うことに致します.

と,ここで蕎麦打ちの話になると予想したあなたは甘い.既に「い」は眩暈がするほど空腹で悠長に蕎麦打ちなどする体力は残っておらぬ.むろん蕎麦掻きでもない.蕎麦掻きだけで一食を賄うのは量的に無理でございますね.


しからばこれをどうやって食うのかと申しますと,ブリニ・コン・グラノサラチェーノ,すなわち蕎麦粉の薄焼きパンケーキであります.余談ではありますが「前略 ミルクハウス」で鈴音くんち屋敷に下宿する事になった芹香ちゃんが,食材ストックの何も無いところから当座凌ぎに作った最初のメニューは小麦粉のパンケーキでしたが御記憶の方はおられるか.

ともあれリンク先にもあります通り本来これはロシアの食い物ならん,それでなくとも「そば粉」というモノの呼び名自体がイタリア語で「グラノ-サラチェーノ」つまり「サラセン人の粉」という意味ですから,元々オリエントから渡来して来たものでしょう.以前のエントリ “チベットのモンテヴェルディ” でも触れましたが,蕎麦の原産は中央アジアですし,差詰めよほど古代からの東西文化交流があったのであろう.昆侖の彼方に生まれた蕎麦粉が,君よ知るや南の国,オレンジの花咲く美しきイタリアまで辿り着くまでの営々たる歴史に想いを馳せれば気宇はユーラシアの大地を駆け巡る心地…

…いや壮大な浪漫に酔っている場合ではない.目下のところワタシは極めて腹が減っておりますので早速に着手.
  1. 蕎麦粉とベーキングパウダーと,牛乳が無いのでクリープの粉と塩少々,隠し味程度に砂糖を混ぜ,
  2. 溶き卵とぬるま湯,さらにバターにオリーヴオイルを加えて泡立て器で混ぜまする.水加減はお好み焼き程度の粘度.「パンケーキ」という名前に幻惑されて固目に溶くと,焼いた時にゴワゴワのボソボソになるので要慎すべし.まして蕎麦粉は混ぜているうちに次第に粘度が出てくるのは蕎麦掻きの例をみれば明らかですので薄過ぎるくらいでよい.
  3. これをオリーヴオイル引きしたフライパンで焼く.薄いのでどんどん焼けて参りますからどんどん焼く.

ブリニ
出来上がり.これにミートソースを付けたりチーズやサーモンを載せたりして食うのであります.塩鮭の残り物はバターと一緒に載せて食うべきでありましょうな.サーモンバターなんてものがあるくらいですから相性抜群であります.ズッパはボンゴレソースをお湯溶きブイヨンでのばし,ホウレン草を入れてレンジでチンしたもの.

ベーキングパウダーはパネトーネ酵母を使うとさらに良いかも知れませぬが,パネトーネ種は温めないと効果がイマイチなので普通はそのへんにある既成のパウダーで充分かと.
このブリニ,ロシアではイクラとかキャビアとかを載せたりもするそうですから,おせち料理のイクラやカズノコが余っておるようなリッチな御家庭でも,ひとつお試しになると一興と存じます.

さても食うにつれ腹が膨れるにつれ,最初の切迫感は次第に雲散霧消,気持ちにも余裕が出て参り,エルネスト・アンセルメのボロディンとかムソルグスキーなど掛けて,遥か西域の彼方,遠いコーカサスの大地,碧眼に亜麻色の髪の舞姫たちに思いを馳せたりも致しまして,蕎麦粉100gのおかげで実に有意義な一食になったわけですが,今度こそ本当に食品庫も冷蔵庫もカラッポ.
……さて明日はマジでお金の工面に行かねばならぬのぅ.

【07.1.23 追記】
折しもexcite でニュースになっておりましたが,ブリニに似た発想の国内モノで,長野には「蕎麦ドラヤキ」なるものが売られておるそうでございます.考えてみればパンケーキってのはジャムやシロップ付けて食べることも多いのですから,ごく近いお仲間な食物と言えましょうね.
さらに似たものと言うと思い出すのは,ピレネー山脈地方には蕎麦粉のクレープがあるようですが,あれも中央アジアからイベリア半島の付根まで幾千里,どうやって伝播したんでしょうなぁ.バスク地方というのは言語風俗習慣どれも独特のものがあるようですが.

【関連エントリ】チベットのモンテヴェルディ
posted by 「い」 at 20:04 | Comment(3) | TrackBack(0) | 呑み喰い
[この記事へのコメント]
  1. おはようございます。先日のアレッシのゴムパッキンの件ですが、当店の仕入れ先に問い合わせてみたところ、昨今のインターネットショップの乱売により、アレッシ自体が小売店への卸は一切取りやめになったとのこと。販売しているのは一部の有名デパートか青山にある本店、そして直営のネットショップのみだそうです。でありますので当店では仕入れ不可能です。申し訳ございませんがご理解の程よろしくお願い申し上げます。
    それでは。
    Posted by 珈琲屋 at 2007年01月25日 11:27
  2. これはどうも態々お調べ戴きまして御手数を掛けました.

    乱売ですかぁ.そう言えば最近あちこちで売られてるのを見かけますな.AMAZON でもALESSI のキッチンウェアを扱っておりますが,売れ筋であろうエスプレッソメーカーは何故か商品リストに入っておらぬのは,そういう事情もあるのでしょうな.ではまた青山に行く序でが出来るまで待つと致しましょう.ありがとうございました.

    というわけでこれをお読みの伊豆高原への転居を志す中高年の諸氏諸姉よ.君たちの憧れておる伊豆高原あたりにはエスプレッソメーカのパッキンは売っておらぬので,予めスペアを買ってから引っ越してくるべし.
    Posted by 「い」 at 2007年01月25日 13:00
  3. ってこれでは他の人には何のことかサッパリわからないと思うので註釈しますと,ワタシは以前に,
    http://lagenda.seesaa.net/article/18316589.html
    で述べましたように,ALESSI の,La cupola っていうエスプレッソメーカーを使っております.
    ところがこれがイタリア製品の通弊どおりゴムパッキンが極めて粗悪にして脆弱,例えば「い」がイタ車に乗っておりましても,やはりパッキン類がグダグダに劣化して油やら水やら蒸気やら空気が漏れて閉口することは日常茶飯なわけですが,このエスプレッソメーカーも同様なのであります.いつもながら彼の国は高分子化学工業に於いて何か決定的に後進的なものがございますな.
    そこで先述の珈琲屋さんに「ALESSIの補修用ゴムパッキンは手に入らないか」と調べて貰った次第.その結果は上記の通りの顛末であります.

    然るに昨日,押入を整理しておりましたら,以前クルマの仕事をしておった時に使った日本製の高品位耐熱シリコンゴム素材シートの残りが出て参りまして,これは好都合と,その素材を自分で切ってパッキンを自作し,取り替えてみました.
    結果は非常に好首尾にて密閉性完璧,もしかしたらイタリア製の純正品よりイイのではなかろうか.

    そういえばコーヒー豆を入れるのに使っているガラスの密封キャニスターもイタリア製なのですが,やはりパッキンがガビガビになってしまっていてあまり密封ではなくなっておる.
    日本ではありふれた高耐熱シリコンゴムも,イタリアでは望んでも望み得ない贅沢な材料なのかも知れませぬがなぁ.
    Posted by 「い」 at 2007年01月30日 00:00
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