2007年09月12日

マキシマリズムの蕎麦

だいぶ更新間隔が開いてしまいました.
この間,必ずしも怠けていたわけではありませんで,ゲストライターをやっておる貸別荘のブログにこちょこちょと投稿したり,アフィリエイトリンクを更新したりしておったのです.

しかしスポンサー各社には申し訳ないが,進んで広告を貼りたくなるような商品ってのは実に少ない.
それでも拙ブログに貼っております広告は,色々な ASP を捜し回り,衣食住を網羅し,報酬を度外視してワタシなりに精選吟味したものを載せた心算でして,iTunes Store も無印良品も UNITED ARROWS も ALESSI も MoMA ミュージアムコレクションも,ワタシ自身が過去にちゃんと自腹で買って使って,それなりに評価に足ると思った商品ばかりでございます.
(にしても Le Corbusier なぞの椅子が安くなりやがったなぁ.往年の半分以下じゃねぇか)

【07.09.28 追記】
上の方で,(にしても Le Corbusier なぞの椅子が安くなりやがったなぁ.往年の半分以下じゃねぇか) なんて書きましたがそれどころじゃねぇようですよ奥さん.

HK-DMZ PLUS.COMで報じられてますが,呆れたことに Corbusier のLC2が,29800円って何だよこりゃ.確かに中国で生産するようになってから値段が落ちてるのは知ってましたが,いくらセールとは云えこの値は往年の1/4…20年前に定価で買った俺の立場は.
【/ 追記】

# 但し衣食住を網羅,と申しても住宅建築はイケませぬなぁ.「い」が人様にお薦めして恥ずかしくないようなベンダーは未だ無し.ミサワホームやダイワハウスなぞはGマークを受けたりはしておりますものの,あれは企業の自薦でして必ずしも内容が伴っておるわけではございませんでな.
まぁこの際,自分の好みぐらいは押し通しても良からん.どうせアフィリエイトなんざぁ風の日の桶屋より儲からぬわ.


安い山形の蕎麦てなわけで話はメデタクいつものドン底貧乏な私事になりますが,拙宅の近所には “ワンダー” というディスカウントスーパーがございます.

ディスカウントを標榜する位ですから常に値は安いのですが,それでも我が貧境には不充分なれば,とりわけタイムサーヴィスや見切品だけに注力して買物をするわけでございまして,今回は3玉58円という茹蕎麦を購めて参りました.これは安い.こういうものばかりなら日本食も捨てたものではござらぬな.パスタと違って蕎麦ばかり食ってるわけにはいかぬのが難ですが.

それにつけても日本の文化ってやつぁ,純粋さを尊ぶあまり,ともすれば極端なミニマリズムに走る傾向がございます.芸術ならそれもよろしい.余計な要素を捨象して研澄まされた簡潔な表現というのは,日本の芸術最大の美点でありますね.いわば "Less is More" ってやつでして,実作品としては雪舟とか桂離宮とか円空とか.

ライフスタイルにしても然り,「清貧の思想;"」なんて本がベストセラーになったのも記憶に新しいところであります.落ち着いて考えれば,貧は単に貧であって,清や濁とは違うレイヤに属すに決まっておるのですが,これをセット概念で捉えてしまうあたりが日本的なのですな.
ちなみに過去のイタリアにも「アルテ・ポーヴェラ (貧乏芸術) 」という運動がありましたが,これはもちろんアイロニーで言っておるのでして日本的清貧とは違う.

しかし,この日本的ミニマリズム観念が食文化にまで及ぶとなると,こいつぁ決して誇るべきものではない.例えば蕎麦は「もり」が究極で,種がたくさん入ってるのは野暮天であるとか.豆腐は冷奴に尽きる.とか,飯はホージ茶のお茶漬けに限る.とか,酒のアテは粗塩だけで充分である.とか.
まぁ一度はそういう通ぶった生意気口を叩いてみたくなる気持ちも解れど,んな粋がったことばかりやってりゃぁ栄養が偏って身体を壊すに決まっております.芸術と腹とは元々依拠する原理が違うのでございますれば.

今回試みるは,そういう退嬰的日本文化に対するオブジェクション.と大風呂敷を広げ,前にちょっと予告した通り,日本蕎麦とラーメンスープの組合せの芸術的可能性を模索してみたいと存じます.広げた風呂敷の大きさの割には包むものがセコいのですが,奇を衒っての事ではなく,航空用語で言うところの「エンヴェロープを押し広げる」試みと受け取って頂ければ幸甚…ってこれでは却って意味が解りませぬかのぅ.

して折しも,先日の excite bit ニュースでは,「そばラーメンって、どんな味?」なる記事がありました.リンク先の記事では「信州そばラーメン」なる特別誂えの蕎麦を使っておるようですが,実は必ずしもそのような蕎麦でなくとも使えるのでございます.例えば,今日58円で買って来た「そばの国、山形のそば」は,太打ちのコシの強い田舎蕎麦でありまして,差詰め使っておる小麦粉のグルテンが多いのであろう.こういう蕎麦であれば充分にラーメンスープと対峙が可能なのですな.

というわけで作例1.
味噌ラーメンスープの蕎麦
スープは味噌ラーメン用をベースにカツオダシをブースト.

工業製品たる「どん兵衛」のテンプラをオブジェに使ったあたりが芸術の脱構築と申しますかダウン・アンド・インというか挑発の意図を含んでおります.味見して頂けないのは残念ですが,食ってみると意外なくらい食感に不自然さがないものでございます.すなわち味噌ラーメンスープに大量に含まれる油脂が蕎麦の喉越しをしてスムーズに為さしめておるという次第.

作例2.は塩ラーメンスープにカマボコとキャベツ炒めあんかけ蕎麦.
塩ラーメンスープの蕎麦

あんは中華スープとオイスターソース少々で味を付けてあります.フレイバーオイルは蕎麦の風味と相性の良い胡麻油を使いました.これもあんと胡麻油が蕎麦のツルツル感を増幅しまして,かなりイケる部類かと存じます.まぁ考えてみれば古来の種物蕎麦にだって「あんかけそば」というのはございますれば,ただそれが中華的のスープに置換されただけでございますね.作例1.に比すれば,ややコンサバティヴな仕方と申せましょう.

して,ワタシと同じような事をやっておる人はおるまいかと,ちと検索してみますれば,天が下には新しきもの無し灯台下暗し,「デイリーポータルZ」にレポートを発見.これはワタシのような個人実験ではなく,店屋で出しておるのだから余程立派な前衛であります.

読んでみるにやはりこの蕎麦屋の亭主も「脂」のスムーズな食感に注目されて工夫されておるようで,バターを使うというのも,突拍子もないようで居てそうではない.以前のエントリ「チベットのモンテヴェルディ」で紹介しましたブータンの蕎麦も,炒め蕎麦で,しかも油脂を多用いたしますな.それに限らず,ブリニであってもクレープであっても,蕎麦と油分というのは決して相性の悪いものではない.すなわちこのような蕎麦の表現可能性を妨げているのは,専ら因循姑息な日本的ミニマリズムであるというワタシの主張に御理解を示して頂ければ,光栄コレに尽きるものはございませぬ.

というわけで今回は2点のゲージツ作品を御覧頂いたわけでございますが,如何でしょう,皆様も,斯様にゲテモノを芸術と強弁し,然る後にそれを食うというセルフパフォーマンスを楽しむというのは.
アートと共にある日常というのは良いものでございますよ.

【関連エントリ】
チベットのモンテヴェルディ
ストラトス・フォー
A Stranger In Paradise
posted by 「い」 at 17:40 | Comment(10) | TrackBack(0) | 呑み喰い
[この記事へのコメント]
  1. こんばんわ。

    お蕎麦屋さんで昔からあるメニューで、鴨南蛮、鳥南蛮、肉南蛮というメニューがあります。要は、鴨なり、鶏なり、肉(豚がいいんですが)をいわゆるソバツユでにたものをスープにしたり付け汁にして蕎麦を食べるものですが、作ってみるとわかりますがこれは結構脂のおいしさを味わうことができます。
    で、蕎麦に良く合います。ラーメンのツユとの違いは、乱暴な言い方をすればベースの出汁に思いっきり魚介系を使うのか、トリガラなのか、豚骨なのか、という違いですからね。

    一人暮らしのときに、パスタを切らしてパスタソースで蕎麦を食べたこともありますがこれまた違和感ありませんでした。(蕎麦粉のパスタってのもありますよね)

    結局どんなツユにでも合う、ということなんでしょうか>蕎麦
    Posted by inagaki at 2007年09月13日 21:53
  2. 脱線しますが、中国地方西端あたりに住んでいたときに、ラードンとかチャンラーという食い物がありました。(結局食べたことはないんですが)

    要は、ラードンは、ラーメンスープ(彼地では当然豚骨スープ)にうどん、チャンラーはちゃんぽんをラーメンの麺(彼地では細麺ですな)という組み合わせで、出自は九州あたりらしいです。

    なにか事情があるのか、面白がってはじめたのかは知りませんが、麺とスープ、ツユの組み合わせをいろいろ試してみるというのはどこでもやるものなんですね。
    Posted by inagaki at 2007年09月13日 21:59
  3. > 南蛮モノ

    これはこれからの季節に結構なものですな.ワタシも好物でして割に良く造ります.ところでアレ等のどこが「南蛮」なのかと謂うと,ワタシはズッと肉が入っておるからだと思っておりましたが然に否ず,太ネギが入っておるからなのだそうで.ネギという野菜がまだエキゾチックなテイストのあった時代に名付けられたのでありましょうのぅ.

    閑話休題,トリ系のダシというのは,実は古来のソバツユにも先例がありまして,特にキジやツルのダシは江戸時代の貴顕に珍重されたようであります.ワタシはこれを踏まえ,普段に自分で造るソバツユには,隠し味に密かにチキンコンソメを加えるのを常としておりますが,これを公言すると蕎麦半可通は必ず嫌な顔を致しますな.黙って食わせりゃ「うまいうまい」って言ってる癖に(笑).要するに表面に鶏脂が浮かぬように仕立てりゃ,秘密の隠し味として神秘化出来るのでございます.
    http://lagenda.seesaa.net/article/18316651.html
    Posted by 「い」 at 2007年09月13日 23:16
  4. > ラードンとかチャンラー

    トピックに沿って別レスとしますが,ワタシこれ得意ですw
    特に,一杯目はラーメン,替え玉はうどん.とか,先にチャンポン,後でラーメン替え玉.等をやりますな.やってみるとこれらは順序が逆だと旨くないようで,どういう理屈かは知らねど,よく考えたものでございますね.

    そこでチト考えるのは,そういうクロスオーヴァ的な食文化というのは,九州北部,或いは長州あたりに多く見られるようで,考えてみればチャンポンなんてのはベースからしてクロスオーヴァですな.
    仮にこういうことを関東でやりますと,衒奇だのゲテモノだのと集中砲火を浴びること疑い無しで.不味い旨いを虚心に評価するのではなく,あれこれと小理屈が煩いのが関東の食の特徴かもしれませぬ.

    # まぁクロスオーヴァ的な食文化は名古屋にもありますが,アレらは味の方も度外視ですからなぁ.そういうのは論外にて,未だ食「文化」と言うに価せず.としておきますが.
    Posted by 「い」 at 2007年09月14日 16:13
  5. こんにちは

    >>「蕎麦に脂」
    わたしも家で作るざっかけな蕎麦で、あまり人に言えないようなものは良く作ります。蕎麦の上に油漬けのツナ缶をオイルごとかけて、かいわれ大根かタマネギのさらしたのを乗せて醤油たらしてブラックペッパーで食べるのなんか好きです。炒めたベーコンとほうれん草なんてのも良いです。

    「南蛮」のいわれは色々あるようですが、昔ネギの名産地として大阪の「なんば」が有名で、それが転じたという説もあります。
    Posted by akira isida at 2007年09月14日 18:51
  6. > 油漬けのツナ缶をオイルごと

    それは良いかも知れませぬな.そう云えば静岡には「磯おろし」という蕎麦がありまして,会社の近くだったのでよく通ったのですが,これはブッカケ系の蕎麦でして,実際に食ってみますとプレーンな磯おろしは,やはり油っ気が欲しくなる気ぞ致します.
    http://www.isorosi.com/item02.htm
    で,カウンタに座って周りを見回せば,やはり皆そう考えるとみえて,天婦羅の乗ったのを誂えておりますね.

    その点,シーチキンであればそういう煩悶懊悩は要らぬわけで,きっと薬味はタマネギに限らず,根深の微塵切りなどでも良いのかも.

    今思い付きましたが,ニシンのオイルサーディンで似たことが出来ないか.つまり,ニシンのサーディンにダイコンオロシとネギとノリであります.すなわち「にしんおろしそば」というわけで,名前だけ聞くと京都あたりにありそうだが実はデッチアゲというわけ.
    うむ.ちょっとやってみるか.
    Posted by 「い」 at 2007年09月14日 23:17
  7. >>すなわち「にしんおろしそば」
     キッバースの薫製の香りも蕎麦に合いそうだし、よさそうですね。ということは、オイル漬の薫製の牡蛎のカンヅメでもいけるかも。

     蕎麦屋の冬の種物で、さっと炊いた牡蛎をのせた蕎麦がありますが、小振りの牡蛎が3つ位しかのらないのに掛け蕎麦の倍くらいの値段とるのが癪なんですが、安手の缶詰でというのも良いかも。
    Posted by akira isida at 2007年09月15日 10:53
  8. 毎度示唆に富む提言ありがとうございます…ってことで,早速作ってみましたツナソバ.
    http://lagenda.up.seesaa.net/image/scOroshi1.jpg

    有り合わせ材料でやりましたので,あたかも先述の「磯おろし」との混淆の如くなっておりまして,先ず茹でた干蕎麦にツナ缶のオイルを掛け回して絡め,盛付けてからダイコンオロシにおろし生姜,モミノリにツナ乗せ.という構成でございます.水晒し根深があれば良かったのですが,切らしていたので万能ネギで,ツユはダシ醤油.

    うむ.これはうまいw

    Posted by 「い」 at 2007年09月16日 21:15
  9. しかし Le Corbusier のイスが軒並み1/4以下ってのはショック大きいですなぁ,これなら,かつてワタシが事業に失敗して売り払ったのと同じ額で4脚が買い戻せ……ないか.

    あゝ未だそこまでの金は無し.というのも御約束ながらトホホであります.
    Posted by 「い」 at 2007年09月28日 12:10
  10. 今更な話ですが,UNITED ARROWS の婦人物ショールなどに原材料カシミヤ70%と表示していながら,実は全く使っていなかった件,イヤハヤ誠に我が見る目が無いと申しますか汗顔の至りにて申し訳次第もございませぬ.

    26日,公取委の排除勧告が出たことで事実確定と看做しまして,以て UNITED ARROWS の広告はアフィリエイトから削除致しました.
    http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20071226i312.htm?from=main3
    Posted by 「い」 at 2007年12月26日 18:50
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