2007年11月27日

紅葉に響くは電子の歌声

だいぶサボっておりましたが,皆様は如何お過ごしですかな.ワタシは例によって体調芳しからず.朦朧たる1ヶ月を過ごしました.折々に窓外を眺めますと,緑色だった筈のモミジやイチョウがタチマチにして赤くなったり黄色くなったりしておりまして,何やら高速度撮影で外界を見ておるような感じであります.

こういう時は積極的の生産的活動をする気力も体力もございませぬゆえ,専ら受動的に時を過ごすわけですが,受動行為で最もラクなのは音楽でありますね.自分で演るとなると,あれほど草臥れるものも他にはあまりないと思いますが,貧窮の折に電子ピアノも売っ払ってございますれば今はただ聴くのみ.しかも現在は iTunes という文明の利器のおかげで,ライブラリの1万数千曲を流しっ放しにしていても1ヶ月は音が途切れぬ勘定であります.

そうやって曲をランダムにシャッフルして聴いておりますと,どういう順位で演奏されるのか知らぬが,先に取り上げた,唯今話題沸騰のボーカロイド・初音ミクの歌声 (と言って良いものでしょうかな) が耳について参ります.

いや,それが不快だと言うのではない.難があるとすれば曲調であります.
製品特性からか,それとも演奏者の嗜好か,現在の初音ミクの既発表曲は,少数派の上質のオリジナル (例えばこういうのこういうの) や,戸川 純やヒカシューなぞのリメイク (けっこう秀逸である) を除けば,アニソンですとかゲーソンですとか,ワタシが普段全く聴かないジャンルのカヴァー曲が多いのでして,それはそれで耳新しく,楽曲自体も悪いわけではございませぬし,アニソンだからと軽んじる気持もありませぬ.が,やはりスイートスポットから些か外れておるのは,誰が悪いでもなくワタシの好みの所為である.

となると,ワタシが普段聴いている曲は邦楽が少のぅございますゆえ,ソースを海外に求める成り行きとなるわけですが,そこで海外の VOCALOID 事情は如何なものか,と試みに検索してみますと,どうやら台湾や中国に少しばかり盛り上がりはあるものの,実際の演奏例は殆ど見当たらぬ.まぁこれは製品として中国語板ボーカロイドが存在しないのですから当然か.

では欧米ではどうなのか.これは調べる前から解り切ったようなことですが,総じて西洋人ってのは,機械が人間の真似をする事を好みませぬな.
西欧文明の文脈では,人に似せて作られた存在というのは,リラダンの「未来のイヴ」や,「フランケンシュタイン」を例に出すまでもなく,凡そピグマリオニズムの行き着く先は悲劇かホラーと云うのが御約束.また純粋に技術の分野である筈のロボット工学分野でも,自律的人型ロボットというのはどうも西洋人にはウケが宜しくございませぬ.

まして声となると好かれるわけはない.何せ西欧の歴史は「初めに (神の) 言葉ありき」からスタートするのであります.そのような神聖なる「声」を機械が真似るなど僭越極まる…と感じられるのでしょう.
このあたり,何でも擬人化するのが好きなアジア人とは大きく違うところでしょうかな.思えば仏像なんぞも擬人化でありましょう.そも「仏」ってのは宇宙の原理というか抽象概念で,それを人型に現すというのは,偶像崇拝というより擬人化好きから来ているのではなかろうか.

しかしまぁ,数は少ないものの,古今の西洋人の中には,ルネ・デカルトハンス・ベルメールベルナール・フォコンのように強まった人形愛の人は居ったのだから,いわば声の着せ替え人形たる VOCALOID 好きの変人も居るのではないか.近年では押井の「イノセンス」とて欧米人に好評だし.
…って変人探しをしておるのではなかった.捜すべきは合成音声音楽でした.

…というわけで,手始めに海外の VOCALOID ベンダのサイトを見てみますと.


Vocaloid Demo
ははぁ.どうやらページをスクロールして行って,下の方ほど新しいようであります.あったあった.最新型 VOCALOID2 "Prima" 嬢が歌うところのモーツァルト,「フィガロ」から「恋とはどんなものかしら?」と来た.まだ新しくて短いデモしかないようですが,外人 VOCALOID 使いの腕の程や如何に.

Vocaloid Prima - Voi Che Sapete (mp3 audio)
うわぁ…これは w ってイタリア語でも普通に歌えるのだな.

ちなみに,我らが日本の電子の歌姫,てか電脳空間の歌人形・初音ミク嬢が同一曲に挑戦したのはこちらに.

初音ミク モーツァルト「恋とはどんなものかしら?」(フィガロの結婚)
可愛いことは可愛いんだが玉砕ですなぁ.まぁ調律師がアマチュアとプロの違い,また日本語用ボーカロイドをイタリア語で歌わせているにせよ…

しかし同じ曲だから気付いたわけではないのですが,日本人の耳って,もしかしたら高音が良く聴こえてないのではありませんかね.初音ミクの方がキーは高いのはともかく,本邦にはどれも高音を強調し過ぎた曲が多いように思います.あれで耳が痛くならんものかな.
さて,もう一曲 Prima,これはエスニック調の曲のようだが,どんなもんじゃい…

Vocaloid Prima - The Return (mp3 audio)
うーむ.スゲー.侮れねぇぞ外人 w

しかしこれはプロの仕事なのだから,本邦のアマ作品と較べては気の毒であります.ではアマチュアのユーザグループはどうかいな.と思って調べますと,このへんに辿り着きました.

VOCALOID-USER.NET
ここはプロ・アマどちらも混在しているユーザグループのようでありますが,拍子抜けな事に,至って冷静と申しますか,特に盛り上がっている様子はございませぬな.あくまでも VOCALOID の使いこなし情報交換.という突き放した印象であります.
日本に見られるように,ボーカロイドに対するフェティッシュというか,アツいものは感じられぬ.「所詮は音源の一つに過ぎない」と割り切っている感じでしょうか.VOCALOID名も “Vocal Font” などと冷たい書き方をしておりますしね.

しかし考えてみれば,対象が電子音源だから突き放したように感じるだけで,もしかしたら彼等は,生の人声さえ客体化・外在化して捉えているのではなかろうか.
思うに声楽というのは,本来は会話用にしか出来ていない人間の声帯を,トレーニングによって「楽器」に造り替える技術でありましょう.

だいたい,ベル・カント唱法であろうとドイツ唱法であろうと,自然な状態での人間の声帯が出せる声ではない.自然状態というのはもっとノイズが多くカオス的であって,歌を歌うための合目的なものではない.自然に出る声だったら,殊更にそれらの唱法が「発明」され「開発」され「発展」するなんて事は有り得ぬわけであります.その極端な例がカストラートのような異形の美声にまで繋がっているわけで.

まぁ,いちおうワタシの立ち位置をハッキリさせておきますと,ワタシは,むしろそっちの感覚に親近感を持つものであります.結局のところ,「自然」ってぇのが根っこのところで嫌いなんでしょうなワタシは.

【関連エントリ】
みっくみくにしてやんよ♪

posted by 「い」 at 18:32 | Comment(4) | TrackBack(0) | 閑話随筆
[この記事へのコメント]
  1. お早うございます。お加減が悪いとか?・・・、大丈夫ですか? だんだん寒くなりますからどうぞ風邪など引かぬようにお大事になさってくださいませ。
    Posted by かめ姫 at 2007年11月28日 07:01
  2. これはこれはどうも痛み入ります.

    なぁに,元から宅内に籠ってウダウダやっている仕事ですから,健やかなるときも病めるときも,内実は殆ど同じだったり致しまして.
    逆にウカウカ外出すると,去年のようにインフルエンザを拾って来たりしますな.今年も流行っているようなので気をつけねば.
    Posted by 「い」 at 2007年11月28日 16:16
  3. つい先日ワタシは,

    > 台湾や中国に少しばかり盛り上がりはあるものの,実際の演奏例は殆ど見当たらぬ

    と書いたばかりですが,タイランドの人が作ったらしい「タイ式灯籠流し」の歌の動画が YouTube に上がっておりました.
    http://jp.youtube.com/watch?v=XPGbWUI5BSk

    やってくれますなぁタイランドの人.アジアの夜明けは近いw.岡倉天心に見せて感想を聞きたいものでございます(笑)
    Posted by 「い」 at 2007年12月08日 23:46
  4. その後,VOCALOID2 Prima がリリースされたようですが,よほど使いこなしが難しいと見えて,“これはスゲー” という作品には聴き当りませなんだ.誰かご存じないか.

    他に耳新しいものと申しますと,http://www.robotula.com/ (いきなり音出ますので注意) というロボ娘に出くわしました.生国と発しまするはロシアであります.“世界最初のロボット歌姫” と自称しておりますが本当かのぅ.実は中に人間が入ってたりせぬか.まぁあの国はソ聯時代から “世界初の〜” は枕詞みたいなものなので眉に唾して聴くが賢明なれど,14曲入りのアルバムもrarに固めてあってダウンロード出来ました.

    して,聴いてみますとこのユーラ嬢,録音劣悪かつ歌もヘタなれど,なかなか物憂くてワタシ好みであるw

    それにしても,ロシアのロボット歌姫というと,タルコフスキーのSF映画あたりからのイメージを持っておるせいか,それとも攻殻機動隊あたりからの聯想か,ギコチナイ方がどことなくそれっぽく感じるから不思議なものでありますね.
    Posted by 「い」 at 2008年06月26日 12:30
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