2008年05月27日

一方ロシア人は露出プレイを楽しんだ

以前のことになりますが,友人が旧式カメラに凝り出しまして,手始めに eBay でウクライナからKiev-4a を買い込んで来た事がございました.その折,件の年若の友人は「キエフ」が旧ソ聯時代に日本に正規輸入されていたことを知らなかったのには,ちと隔世の感に打たれた「い」でございます.

# しかしあれも「正規輸入」と言うのでしょうかのぅ.以前のキエフは新橋の「メイボーオプテル」とか申す会社が売っており.アサヒカメラなんぞの広告には日本総代理店と書いてありましたが,訪ねて行くと店という雰囲気ではなく,古ぼけた地味なビルの2階か3階にヒッソリと事務所があり,戸口の小さなガラスケースに Kiev-4 やらKiev-88やらが並んでいるだけでして,声を掛けるとカギをジャラジャラ言わせて出して見せてくれたものでした.
やはりキョーサン主義というのは,華やかな店構えだと資本主義的頽廃ってことで不可なのだろうか.折しも冷戦酣の頃でもあり,最初に訪のうた時には社員がみな露探に見えてしまって困った.いやゾルゲ一味でもあるまいし実際はそんなワキャない.…と思いますが,今となっては確かめ様もない.

# 余談ですがモノの本によりますと,ゾルゲ一味が実際に機密書類や図面の複写に使っておったのは,CONTAX 1 に Sonnar F2,後に CONTAX 2 に Sonnar F1.5と特製の接写器で,ゾルゲ本人は LEICA と ROBOT を愛用だったそうな.LEICA はド定番で何の芸も無いが,ROBOT というのは中々渋いですな.まさかその実績によって CONTAX の優秀性がスターリンやベリヤに強く印象され,敗戦直後のツァイス・イエナを強引に接収する一因となった…てな可能性も零ではないと思うが,今となっては確かめ様もない.

もちろんワタシの若い頃というと,まさかゾルゲの昔でもあるまいし,ソ聯のカメラは西側から見れば既に完全なシーラカンスであって,あえて興味を示す猟奇の徒は多くはなかったとみえ,確かボディに Sonnar のコピー f1.5 50mm が付いて3万円そこそこでしたから安いのですが,捗々しい売行きではなかったような記憶がありますが実際はどうか,今となっては確かめ様もない.

ただワタシは昔から利き目の右に乱視の気味があり,二重像合致を苦手としておりまして,斯様な古典35mm カメラの中では,Kiev は戦前の CONTAX ほぼそのままのファインダゆえに明るく見易いため,割に好きな機械でありました.例えば皆様よく御存知のバルナックライカのファインダなぞは,接眼部が非常に小さいし暗いこともあって相当に見辛いのである.高齢の LEICA 使いの方はあれを器用に老眼鏡越しに扱われるようだが.

おっと,マニアでもあるまいに,今回は古典カメラの話をしたいのではなかった.そのテの話であれば他にもずっとタメになるサイトも多からん.いやなに,話はもっと他愛無いことにて……

「露出」であります.友人の買った件の Kiev,これには今風の AE はおろか露出計そのものが付いておりませぬ.そこで彼はどうしたか.

サブに使っていた Rollei 35を持ち出して覗き込み,アレには GOSSEN の露出計が内蔵されておりますから,その指針を Kiev にセットして撮った.というのですな.
その話を聞いてワタシは「リバーサルの室内撮影や人口光源でもあるまいに,大筋でフィルムの取説に書いてある露出目安表に従って勘で補正すればよいのでは」と思ったのですが,考えてみると今は露出目安表なんてものは載っておらぬかも.いやそれどころか取説そのものが無いかも.最近はフィルムって買った事ないから解らぬが.

さらによく考えてみれば,露出計のないカメラなんてものは相当に大昔の機種に限られたものであって,殆どの人は最初から信頼度の高い露出計が付いているのが当り前な時代に育っているのである.これはチト虚を突かれる思いがしたわけであります.

もちろんワタシとて然程の高齢ではありませぬが,小学生の頃最初に使ったカメラが祖父のお下がりのリコーフレックスでしたし,また露出計なども小学生にとっては大変に高ぅございましたので,露出は勘でやるのをを当然として育ちましたが,さりとて「イマドキの若い者は露出の勘もありやがらねぇ」などと爺むさく嘆いたりはせぬ,却って今のワタシは AE AF の使い方が解らぬ故に馬鹿にされたりしておりますよ.要は事の難易ではなく,技術体系がスッカリ変わってしまったわけで,既に陳腐化した技能を徒に誇っても失笑の的になるだけである.

リコーフレックスで撮った写真
【ワタシが10歳当時,リコーフレックスとネオパン SS で撮ったもの.被写体は同級生の友人,小学校の校庭にて背景は保健室棟,運動会の日でしたな】

まぁ確かに昔のカラーフィルム,就中リバーサルはラティテュードが至って狭く,特に室内では如何に鍛え抜いた精妙な勘を持ってしても失敗の公算は高ぅございます.しかし誰もが高価な露出計を買えたわけではない.まして貧乏青少年であったワタシをや.かと申して露出目安表では大雑把過ぎてモノの役に立たぬ.このような状況はどこにでもあったと見え,必要あるところにはソリューションありでもって,「露出計算尺」なるものが非常に安価で売られておりました.以下に示すのがその【関式露出計 セノガイド C】であります.

セノガイド下の取説には「露出計」とありますがこれは所謂「露出を計る」という意味ではない.単なる定期券大の金属板に回転板が付いているだけのもの.受光部も演算回路もございませぬ.無論,電源などあるわけがない.差詰め
「露出計 (算尺)
の略でありましょう.

これにはフィルム感度,季節,天候,撮影状況,被写体などが味わい深いアイコン (絵図.と書きたいところですな) で印刷されておりまして,円盤部をぐるりと回してそれらのパラメータを合わせると,ちゃんと露出が出るのであります.撮影状況の多様さも抜かりなく,室内はおろか天体写真や夜間フラッシュ撮影さえ想定され,極薄軽量なので財布にも入って持ち歩きに至便である.

と,このように書くと如何にもローテクかつインチキ臭いのですが,精度 (というとおかしいな.信頼度と言ったら良いか) は侮れぬものがあり,ワタシはずっとコレを Ektachrome と共に愛用して参りましたが,かなり微妙な状況でも失敗した記憶は殆ど無い.不精確極まりないニコマート FT の平均測光なんぞより遥かに頼りになる.生憎手許に試写の見本が見当たらぬが,試みに検索してみますと,こちらにそれを検証したサイトがございました.如何でしょう,思わず唸る正確さではなかろうか.

勿論このようなものは,今となっては甚だ時代錯誤の道具にて,よほど特殊な用でもなければ使い道もなからん,製造元の「株式会社 関研究所」というのも絶えて久しいようですが,失われたとなれば求むる人も居るのか,Yahoo! Auctions で見てみますと,正気とは思えぬ値段で取引されております.いつからこういうことになったのだセノガイド. 昔ワタシが買った時には2k 円,近年に売っ払った時には600円だったぞ.

しかしこの原理はマトリックス図に毛の生えたようなものですから,PC でシミュレート出来ないか.と思って検索してみると,やはりやっておる方は居られるようで,マウスポインタで円盤をぐるりと回すのなぞは楽しそうであります.昔懐かしい HyperCard や Smalltalk-80 でも作れそうな気がする.イマドキのハイテクの粋を凝らしたデジカメのオマケ機能なんぞにジョグダイヤル操作で付けたら面白いかも知れませぬなぁ.いや何も今更そんな屈折した娯しみを求めることもないのですが,光学技術てぇのは元々屈折がつきもの.ってことで.

# 現代でコレを使うシュチュエーションを想像してみるに,例えば軌道上での EVA 中の撮影なんぞはどうでしょう.計算尺は予め宇宙空間用のパラメータに書き換え,宇宙服グローブでも操作出来るようにせねばなるまいが,耐放射線仕様の純機械式カメラと露出計算尺であれば,強烈な宇宙線への耐曝性も高かろうし,如何なる温度差や気圧差があっても作動確実で絶対に電池切れもない.「プラネテス」のユーリ・ミハイロフがデカい手で器用にこれを操作する様など,ありありとイメージ出来るではありませぬか.何やら「一方ロシア人は鉛筆を使った」の笑話のようですが.

# ソユーズやサリュートでは,実際にはどうやって写真を撮っていたのでしょうなぁ.Space Nikon F3 の向うを張って,もし「キエフ・コスモノーツ」なんてのがあったら,シーラカンスの究極進化型みたいで,強烈に萌えませんでしょうか.

posted by 「い」 at 00:04 | Comment(0) | TrackBack(0) | 閑話随筆
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